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ワイン

【造り手の声】日本のワイナリーで活躍する、女性醸造家たちの話

2025.11.13 著者:sakesukiya

京都丹波ワインの愉快な醸造家 

京丹波地域は、京都の山間豊かな自然環境に恵まれ、古くから京料理の食材供給地として豆や栗、京野菜などで知られています。 丹波ワインは、食の宝庫の風土と食を活かすためのワイン造りを、1979年地元の日本酒蔵を借りスタートしました。 近年、二人の女性醸造家が繊細な感性と技術、独自の味わいを生み出し、日本の食にとても合うと愛飲家を増やしています。 どんな想いでワイン造りに励んでいるか、醸造の柱のお二人に聞きました。       

(醸造責任者の内貴麻理さん右 浅野玲緒奈さん左)

なぜワイン造りに?

内貴:30年前に地元京都でモノ造りしたいと丹波ワインに入社、そこから一筋にワイン造りを続けてきました。当初はかっこよさに憧れた部分もありましたが、実際は一から試行錯誤で経験を積み、失敗も繰り返しながら今のスタイルに辿り着いた感があります。

浅野:私は大学卒業後にオレゴン州立大学で醸造を学び、当地の主力ピノノワール種で日本でも美味しいワインを造りたいと思いました。2008年から丹波ワインで造っています。入社初日に10tの葡萄が入り、籠でひたすら運んで、心折れた記憶があります(笑)。

現場で学んだこと

内貴:最初の頃は何も考えずただただ動きました。繰り返すうちに数年後、葡萄の品質やトリートメントが気になり、各工程に気を抜かないことがワインという結果に出ることを知りました。 基本をしっかりやらないとダメだと気付き、様々楽しんでもらう工夫にも、基本が備わっていないと美味しくないと学んでいます。

浅野:洗い物に始まり洗い物に終わる、と内貴さんに叩き込まれました。ワインも内貴さんも生き物なので、丁寧に接しないと機嫌を損ねるのだなあと、いつも体感しています(笑)。

<酵母が葡萄の糖を上手に食べ発酵環境に気を遣います>

「基本を大事に」

内貴:基本を抑えると応用もできるようになり、より楽しんでもらえるワインを開発できています。面白いと思うことにチャレンジしていくにも、ここが要と思うのです。 自社畑の葡萄に取組んできた経緯は10年前くらいから形になってきており、丹波ワインの個性風土を生かした「これぞ丹波ワイン」を今目指しています。

浅野:今のチャレンジは「婚活」とピノノワールの挑戦です。 まだ足りないところもありますが、この畑を理解してワインへ生かすという造りの基本が、徐々にわかり始めたように思います。 オレゴンの葡萄と丹波の葡萄は同じ葡萄品種でも別物、目の前と向き合う基本姿勢こそがいい結果に繋がると信じています。

丹波ワインの「らしさ」とは?

内貴:柔らかさ。ワインには造り手の思考も反映されると思っています。パワフルなフルボディを目指すのではなく、食を一層美味しく感じさせる寛容さをこのワインたちに感じてくれたら、私たちの理解者です(笑)。

浅野:柔らかさの中の芯、かな。個性や強さを全面に感じるのでなく、エレガントな表情の中に、1本ブレない思いが優しく伝わる、そんなイメージが私たちの理想です。

内貴:ピノノワールは評価も高く丹波ワインの顔、一方、それだけではなく他のワインもどんどん良くなっている実感があります。難しい西日本でのピノノワールを生かす試行錯誤は、他のワインの品質向上にも影響し、今自信を持って取組んでいます。

浅野:内貴さん引退後はもっともっと極めていこうと、虎視眈々です(笑)。全体的に「飲み疲れしない」ワインが目標です。

ピノノワールについて

浅野:丹波ワインの個性の一つピノノワール、ここの葡萄はアメリカやヨーロッパとも違う見た目で色付きが淡いです。これをよく知り個性とし美味しくなってもらうために、飲んだ時の上品さ、柔らかさの表現と旨味のバランスを常に意識しています。

内貴:これは出汁です!前面に感じる酸味や甘味だけでない、裏に「旨み」があることが丹波ピノノワールです。香りの複雑味も重要な味わいの構成員です。

カメラマン:横からすみません、僕の家庭では鍋料理に丹波ワインをよく合わせています。バランスと美味しさ相乗効果は、妻も小さい子たち?もご満悦です。

好きなワインは?

内貴:自慢のピノノワールもいいですが、白も泡も好きです。まだ発展しそうですが、シャルドネはよくクリーンヒット飛ばします(笑)。 瓶内2次発酵のスパークリングは10年寝かせ満塁ホームランです。熟成は置けばいいものでもない所が、また面白い。例えばこの畑には約50種もの葡萄を栽培していますが、単一で物足りない子たちも、彼らが力を合わせるとモンスター級な香りを産み驚くことがあります。個性と個性が合わさり新たな一期一会のスパークリングへ、楽しみにじっと育つのを待ちます。

浅野:私はもちろん!ピノノワールです。オレゴンで知ったこの葡萄の美味しさに、ショックを覚えた記憶が鮮明です。この丹波の地でオレゴンを超えたいと思い、今一歩ずつ近づいていると感じています。

内貴:他にもセミヨンも好きなワインです。この葡萄を遅摘みにすると品のある甘さと香りを発揮、食後のデザート酒としてこれにハマる人は多いです。

人気の「てぐみ」とは?

<造り中のワインは旨い、醸造家だけが知る味わいを低アルコール無添加微発泡で>

内貴:美味しくないワインを造った時に、葡萄に申し訳ないと心の反省文を書きます。いいワインができた時には、一人ほくそ笑みます。 近年では「てぐみ」ができた時に、大いにほくそ笑みました。お客様にも大変喜んでもらえ、メガヒットは社にも貢献できました! ユニークな造りですが、基本や応用の積み重ねの上に無添加で仕上げる挑戦は、ある意味で集大成と感じています。発酵の緻密な観察や毎年違う葡萄の様子等、造るのはなかなか大変ですが、丹波ワインの思いと技術が詰まった作品、と思い頑張ります。浅野さんはなかなか褒めてくれないですが(笑)。

「てぐみ」は飲み方も、カクテルのように氷や好みのジュースで割ったり、自由に気軽に楽しんでほしいです。コルクを使わずリキャップできるスクリュー栓で開け方も楽、ボトルの前半と後半で日を分けて開栓後冷蔵庫に、酵母の味わいの違いも感じて楽しいワインです。アルコール度数も低く、酸化防止剤も無添加で仕上げましたので、ゆったり肩肘張らずに楽しめますよ。自然な炭酸の爽やかな微発泡は、ビールの代わりでビールのおつまみでOK。ロゼの方はバーベキューで自画自賛してよく飲みます。

これからのチャレンジ

内貴:今や日本のワインは品質的には世界に負けていないです。丹波ソービニヨンがヨーロッパで受賞しても「当たり前」に感じていました。日本のモノ造り職人として、普通の葡萄でも素晴らしいワインにする、この創意工夫を気概に生きています!

1年1年大事に、「記憶に残るワイン」を造っていきたいですね。とても美味しかったあのワイン、何だっけ?と言われたら昇天します。 

浅野:特に世界に臆することもなく、京都の楽しみを構成する一部になっているように思えます。 観光などで知る機会をご縁として、気負わず楽しんでいただけたらなにより嬉しいです。ワイナリーにも遊びに来てください。内貴さんや一緒に働くワイナリーの愉快な仲間たちと日々進化しています、どうぞ見ていてください。

京都・丹波ワインで、造り手の様々な思いがワインへと結実していることが、現場の取材で理解できました。また畑やサービス等別の役割り、そこからの視点でのお話も、ご紹介していきたいと思います。 酒好や 西山

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